秋の夜長は、読書で味わう映画の世界
『世界の中心で、愛をさけぶ』に見られるように、ベストセラー作品の映画化は珍しくありません。また、映画化されたことにより、隠れた名作が注目を浴びることも少なくありません。今回は、女流作家の作品を原作とした、いくつかの作品をご紹介したいと思います。
『海猫』(2004年)
谷村志穂が、郷里の北海道を舞台に、約5年をかけて綴った同名の大河小説が原作です。主人公“薫”の愛の行方を軸に、女性3世代にわたり繰り広げられる恋愛模様を描いたこの作品は、第10回島清恋愛文学賞を受賞しました。
漁師で無骨な夫と、優しく繊細な義弟の間で揺れ動く美貌の主人公を演じるのは、映画・テレビドラマ・CMなど幅広い活躍を見せる、いわき市出身の女優・伊東美咲です。主人公が併せ持つ透明感のある美しさと、はかなげな危うさを見事に演じたとして、11月中旬の公開を前に話題となっています。
*『海猫』913.6/T62(人文全集)
『透光の樹』(2004年)
続いて、10月末に封切られたばかりの今年の映画です。原作は、第35回谷崎潤一郎賞を受賞した、高樹のぶ子の同名ベストセラー小説です。「波光きらめく果て」「霧の子午線」と、以前にもその作品が映画化されていますが、特に映画化することが難しいとされていたのが、この「透光の樹」でした。
古都金沢を舞台に、25年ぶりに出会ってしまった男女の、激しく濃密な大人の純愛を描いたこの作品、主人公の“千桐”を演じているのは、磐城女子高校(現磐城桜が丘高校)出身の秋吉久美子です。
『ジョゼと虎と魚たち』(2003年)
原作は田辺聖子の同名短篇小説です。意外にも田辺文学初の映画化作品となります。
普通の大学生“恒夫”と、自分のことを、サガンの小説からとった名前「ジョゼ」と呼ばせる脚の不自由な女の子“くみ子”の、ピュアでキュートなラブストーリーです。
『ヴァイブレータ』(2003年)
いつも頭の中で聞こえる“声”の存在に悩まされている主人公は、不眠、過食、食べ吐きを繰り返し、アルコールに依存することでその存在を維持しています。ある日、自分とは正反対の雰囲気を持つトラック運転手と出会い、一緒に旅する中でその心は癒されていきます。
原作は、芥川賞候補となった赤坂真理の同名小説です。「私のことが書いてある」と、多くの女性の共感と支持を得た作品でもあります。
- 『ヴァイブレータ』913.6/アマ031(人文全集)
これからの映画から
昨年芥川賞を受賞した綿矢りさが、高校生の時に執筆し、第38回文芸賞を受賞した『インストール』が映画化されます。不登校の女子高生と小学生が、風俗チャットで大人の世界を知っていくという物語ですが、主人公には上戸彩が決定し、大きな話題を呼びそうです。
二人の大学生を主人公に、年上の既婚女性との恋愛を描いた、江國香織の長篇恋愛小説『東京タワー』も映画化されます。江國香織原作の映画といえば、他にも「冷静と情熱のあいだ」や「きらきらひかる」があります。
- 『東京タワー』913.6/エカ01Z(人文全集)
- 『冷静と情熱のあいだRosso』913.6/E3(同)
- 『きらきらひかる』913.6/E15(同)
その他、女流作家の作品が原作となった近年の映画としては、『模倣犯』(宮部みゆき)や『 OUT』(桐野夏生)などもあります。- 『模倣犯』913.6/M27(人文全集)
- 『OUT』913.6/K8(同)
編集に当たっては以下のサイトを参考にしました。
http://umineko.biglobe.ne.jp/
http://www.cqn.co.jp/toukounoki/
http://www.jozeetora.com/index_f.html
http://www.sanspo.com/
本に関する名言 26
読書とは教わるものではなくて、それによって自分の頭を動かすことである。」
河上 徹太郎(評論家)/『読書論』(昭和24年)より