『ねしょんべんものがたり』(童心社 1971)に「わたしのおねしょのはなし」として、自分の思い出を綴っている。そこには、おねしょをする子どもへの応援メッセージが込められている。
一方、『短編集おもいで箱』(「原爆児童文学集」汐文社 1985)に「ふつうではないおばけごっこ」を書いている。この作品は、同級生、姉弟、従兄弟と留守番をする小学4年のみゆきが、アメリカとソビエトが戦争を始め、原爆が落ち人間が滅びるというふつうじゃないおばけごっこをする。その夜、福島県野原町に住むおじいちゃんが入院したとの知らせが入り、おかあさんが駆けつけるが、10日後亡くなる。実は、おじいちゃんは通信兵として原爆が投下された広島にいて被爆していたのだという。その体験を綴った文章を読んだみゆきが、おじいちゃんが知りたいと願っていた原爆投下の理由を調べたいと思うまで、という短編である。挿入されているおじいちゃんの体験文は『私も証言する-ヒロシマ・ナガサキのこと-』(原爆を考える原町市民の会)を参考にしている。
1974年翻訳刊行の『アイオイ橋の人影』(オフチンニコフ著 冨山房)は原子爆弾の製造から投下にいたる過程と、ヒロシマの傷跡を描いた若い世代への本である。その訳者あとがきで「わたしは、この『アイオイ橋の人影』を日本語に翻訳できて、大変うれしい。でも同時に、これからの自分に、ここからは、どうしても退くことはできないという一線ができたのだということもわかる」と述べ、大変な分野に手を出してしまった重圧と目をそらしてはいけない責任の重さを語っている。その思いが、「ふつうではないおばけごっこ」を書かせたのではないだろうか。