令和4(2022)年度に紹介した「お薦めの1冊」

 

『極大と極小への冒険』

デイヴィッド・ブラットナー/著 柴田 裕之/監訳 市川 美佐子/訳 紀伊國屋書店 2014.7

「世界一大きな数って?」、「世界一短い時間って?」
こんなことを、子どものころ一度は考えたことがあるのではないでしょうか。そんな素朴な疑問に、とことん付き合ってくれるのが本書です。
筆者は極大と極小の世界を、「数」「大きさ」「光」「音」「時間」の六つのテーマに分けて、分かりやすく説明します。
出てくる極大と極小は人間が知覚できる限界を超えたものがほとんど。例えば人間が感じ取れる光は、スペクトル全体の0.001パーセント未満というのだから驚きです。世界の広さに想像を巡らせることができる、楽しい科学読み物です。

2022年4月20日 vol.215掲載

 

『清少納言がみていた宇宙と、わたしたちのみている宇宙は同じなのか?』

池内 了/著 青土社 2021

天文学者の著者が、古典と科学を絡めながら紹介するサイエンスエッセイです。清少納言が見た星を天文学の視点から捉える第一章に始まり、物理学や生物学と文学の間を行き交う語り口には、分野を飛びこえたおもしろさがあります。
清少納言のほかにも、万葉人が宵の明星と明けの明星を違った星と見ていた可能性や、万葉集から江戸川柳まで広く文学で愛されてきた鰹の「うま味」の科学など……。いつもとは違った切り口で古典や科学を楽しみたい方におすすめです。

2022年5月20日 vol.216掲載

 

『地方創生は古い建築物を見直せ』

鈴木勇人/著 幻冬舎メディアコンサルティング 2022.2

建築家である著者は、歴史的建築物の再生・活用に関する様々なプロジェクトに携わってきました。本書では、これまでに著者が関わってきた再生プロジェクトを紹介し、歴史ある建築物を残し、活用していくことは、地域の活性化につながると解説しています。
再生プロジェクトの事例では、旧堀切邸や福島市写真美術館などが取り上げられており、それら建築物がどのような過程を経て再生され現在に至るのか、技術的側面やコンセプトも含め記されています。また、地域住民や関係者とのエピソードも描かれており、建築物に対する人々の思いや願いを感じることができます。
長きにわたり地域に存在してきた伝統的な建築物をどうしていくべきなのか、建築物のこれからについて考えさせられる一冊です。

2022年6月20日 vol.217掲載

 

『論文の教室 レポートから卒論まで』(最新版)

戸田山和久/著 NHK出版 2022

論文・レポートの書き方」を取り上げた本は数多くありますが、その中でも定評ある一冊です。論文・レポートを「問いに対して明確な答えを主張し、その主張を論証する」ものと定義し、よりよい論文・レポートの構成法を解説しています。
この本のおすすめポイントは、冒頭で「作文ヘタ夫」なるキャラクターによる、ダメなレポート例がある点です。「三十数年の教師生活で会得したダメ論文作成法のノウハウが凝縮されている(P27)」だけあって、「広辞苑攻撃」など、思わず「あるある」となるものばかりが詰まっています。なぜその書き方がダメなのか、改善する方法が丁寧に解説されており、面白さと有用さを兼ね備えた名文?ですので、ぜひご覧ください。
初版は2002年刊ですが、昨年「最新版」として2度目の改訂が行われ、探し方などの情報も最新のものにアップデートされています。探究学習・受験論文指導を担当される先生方はもちろん、ご自身で研究・調査報告に携わる方にもおすすめです。

2022年7月20日 vol.218掲載

 

『「その他の外国文学」の翻訳者』

白水社編集部/編 白水社 2022

ヘブライ語、チベット語、ベンガル語、マヤ語、ノルウェー語、バスク語、タイ語、ポルトガル語、チェコ語・・・。これらの言語で書かれた文学は、英米文学や中国文学などと比べて日本ではなじみが薄く、「その他の外国文学」としてまとめられてしまうこともあります。
本書は、日本では「その他」とされてしまう言語圏の文学を邦訳してきた9人の翻訳家たちへのインタビュー集です。
日本語で書かれた教材がほとんどない中、どのようにその言語と出会い、学習してきたのか。また、翻訳をするときの工夫なども紹介されています。それぞれの言語や文学に対する翻訳者の熱意を感じることができ、「その他の外国文学」への関心が高まる1冊です。

2022年8月22日 vol.219掲載

 

『こども哲学図鑑 考えるっておもしろい!』

河野哲也/監修 NPO法人こども哲学・おとな哲学アーダコーダ/編著 あかね書房 2022

哲学と聞くとどんなものを想像しますか?難しそう、分かりにくいなどのイメージを持つ人も多いかと思います。本書はそんな哲学を昨今の社会問題にからめ、分かりやすく説明しています。
心とは何か、宇宙とは何かということを一度は考えたことがあるのではないでしょうか。哲学は、そういった問いに悩む中で生まれると言います。問題を解決することだけにとらわれず、悩むことで自分なりの哲学を見つけることができます。
子どもだけでなく、大人が読んでも学べる一冊です。 

2022年9月20日 vol.220掲載

 

『福島のしごと 2022年版』

エス・シー・シー/編 エス・シー・シー 2022.1

本書はタウン情報誌『CJ Monmo』でおなじみの出版者であるエス・シー・シーが、「みんなに知ってほしい」、「魅力を伝えたい」との想いで選んだ福島県内の注目の企業について紹介した資料です。企業の基本情報や業務内容のほか、スタッフの声や代表者からのメッセージなどが掲載されています。写真も豊富に用いられており、福島県内の魅力あふれる企業について楽しく知ることができる内容となっています。また、「若手&先輩社員に聞きました」として、実際に働くスタッフの「この仕事を選んだ理由」や「今だから笑える失敗談」なども紹介されており、働く人を身近に感じることもできます。
将来の仕事や働くことにについて考えるきっかけづくりにもおすすめの一冊です。
  

2022年10月20日 vol.221掲載

 

『子育て支援の経済学』

山口 慎太郎/著 日本評論社 2021年

 経済学の観点から様々な子育て支援政策について、その効果や是非を論じた一冊です。「なぜ政府が少子化問題に取り組むべきなのか?」というそもそもの疑問から、「保育所支援で母親は働きやすくなるのか?」など政策に直結する内容まで幅広く扱っています。この本では経済学に基づいた実証(統計)分析から各種政策の帰結を分析していますが、そうした分析の手法や前提(国や制度など)を詳しく述べていることが特徴的です。そのため、各種の問題に対して「何が」「どこまで」言えるのか、逆に何が分からないのかが分かりやすく、子育て政策のあり方について考えるきっかけになります。教育と密接な関わりを持つ子育て政策に関心のある方にお勧めの一冊です。

2022年11月21日 vol.222掲載

 

『らくご植物園』

相羽 秋夫/著 東方出版 2022年

本書は、落語に登場する植物(樹木、草花、野菜、果物等)に焦点を当て、噺の簡単なあらすじとその植物にまつわる雑学や豆知識を紹介した本です。 
植物に着目しながら落語を鑑賞することは、あまりないかもしれませんが、本書を読むと植物が重要な役割を果たしている噺がたくさんあることが分かります。
全部で100種の植物を、見開きごとに1種類ずつ紹介しており、落語を鑑賞しつつ読み進めることができます。落語好きの方はもちろん、落語にあまり触れてこなかった方も楽しめる内容です。
姉妹書の『らくご動物園』もおすすめです。

2022年12月20日 vol.223掲載

 

『障害者ってだれのこと?「わからない」からはじめよう』

荒井裕樹/著 平凡社 2022年

私たちの社会は大多数に属する人に便利なようにできているので、場合によってマイノリティとなったとき、多くの生きづらさを抱えることになります。「障害」とはなにか、「障害者」とはだれかを改めて考えてみると、実際は障害も様々で、一概に決めることなどできません。差別は、大多数の人にとっての効率や便利さから、今までないがしろにしてきた、マイノリティが普通の社会生活をするために必要な一つ一つの権利を拒むことから生まれています。著者は「差別のない社会」ではなく、「差別があったら怒れる社会」の実現を提案しています。

2023年1月20日 vol.224掲載

 

『大学進学にともなう地域移動 マクロ・ミクロデータによる実証的検証』

遠藤健/著 東信堂 2022年

本書は大学進学にともなう地域移動(進学移動)について論じた研究書で、地方における高校生の進学行動のメカニズムを明らかにし、若者の東京一極集中の背景に迫ることを目的としています。
本書ではまず「学校基本調査」等で集計されたマクロデータを用いて、「大都市における地方出身者の就職・進学移動の増減の変化」と「首都圏の大学定員の増加と進学移動の関係の変化」について検証し、その結果から生じた課題を受け、「進学移動の時系列的変化とその要因の解明」を行っています。そして、そこで特定された進学移動に影響を与える要因について、今度は福島県の高校生を対象とした質問紙調査をもとに、ミクロデータを用いた実証分析を行い、「個人レベルの進路選択、進学移動に影響を与える社会的要因とは何か」を探っています。
緻密なデータ分析による検証と考察は読みごたえがあり、大学と地域社会のあり方について考える契機となる一冊です。

2023年2月20日 vol.225掲載