ジェームズ・C・スコット/著 立木勝/訳 みすず書房 2019
一定の場所に密集して住み、穀物を育てて暮らす――。いったいどうして、私たちホモサピエンスの多くがこのような暮らしを選んだのでしょうか。この疑問について、動植物と人間の〈飼い馴らし〉をキーワードに探っていきます。
農耕の始まりと聞くと文明や発展といった言葉が浮かびますが、本書ではむしろ一か所に密集することによる感染症の流行や、耕作のための重労働などによって、農耕民は狩猟採集民よりも苦しい生活を送っていたと述べています。不安定な狩猟採集生活が発展し、安定した農耕社会へ移行した・・・という従来のイメージを変えてくれる一冊です。
また、本書の発行時期はコロナウイルスが流行するよりも前ですが、感染症が初期国家へどれほど重大なダメージを与えたかについてたびたび触れています。今の状況を踏まえて読むとまた違った印象を受けるのではないでしょうか。
2021年5月20日 vol.204掲載